字幕翻訳のあれこれ

英語を使う仕事の一つに、字幕翻訳があります。

今回は筆者が仕事として経験した字幕翻訳の話を書いていきます。

 

筆者は就職する前に翻訳学校に通っていました。クラスメイトには様々な方がおり、英語力も初級程度から帰国子女までいました。

ある方は、ご主人のお仕事の都合で長年アメリカに住んでいました。もともと翻訳の仕事に興味はなかったらしいですが、あるとき日本語字幕つきの洋画を見て疑問がわいたそうです。

「英語のセリフと、字幕の内容(意味)が違うのは何でだろう?」

その謎を解き明かすために、彼女は語学学校に通うことにしたと言うのです。

ヒアリングが得意な人ほど、同じような疑問を持つのかもしれません。中には、誤訳を疑う方もいるでしょう。

 

あってはいけないことですが、誤訳の場合も、もちろんあり得ますし、翻訳者が原文を理解していても、うまく日本語に置き換えられなかった場合も考えられます。しかし、大抵の理由は、1秒間に4文字以内の字数で訳すという原則が影響していると考えられます。字数制限のために訳文全てを載せることができないので、「言っていることがちゃんと訳せてない!」と思われてしまうのでしょう。

洋画を日本語に翻訳する場合、吹き替えの場合は7~8割、字幕の場合は3~4割ほどしか原文の意味を伝えられないと言います。字幕では、それほど情報量がガクッと下がってしまうのです。

字幕は原則1秒4文字とは言いましたが、さらに言うと、簡潔で端的であればあるほど良いとされています。短い言葉にギュッと意味を込めることができれば、視聴者が字幕を読むのに必死にならず、映像そのものを楽しむ余裕が生まれるからです。

 

ちなみに吹き替え翻訳の場合、役者の口の動きになるべく合った日本語をあてる工夫も必要とされますし、字幕翻訳よりも登場人物のキャラクターに合った口調をしっかり見極める必要もあります。

字幕では、ギッシリと意味が詰まっている熟語や漢字を多用してしまいがちですが、これは良しとされていません。見た目の美しさやバランスも大事だからです。漢字ばかりを使わずに、端的に表現するには、英語力よりも日本語の表現力が問われます。

 

筆者の実体験として、初めて翻訳を任されたときのことが印象に残っています。映画監督が制作秘話を語るドキュメンタリーで、監督が自身の作品を、ある作家を引き合いにしてたとえた発言がありました。その作家の名前を字幕にしても文字数オーバーしてしまいますし(カタカナ表記は字数を奪いがちです)、何より日本では無名(しかも現地でもマイナーな作家)なので、作家名を出しても視聴者の疑問に残るだけです。固有名詞は表記するのが大原則ですが、このような場合はそうとも言い切れません。そこで、インターネットで数少ない情報を頼りに、その作家の作風を知り、監督の発言に矛盾していないか確認し、意訳をしました。

具体的にはこのような感じです。

監督「今作を作る上で、〇〇という作家の世界観を参考にしました」

→〇〇は昔ながらのアメリカをよく題材にしていた

→字幕「古き良きアメリカを表現した」

このように、表面的には言っていることが違っても、分かりやすく端的に表現できればいいのです。

 

ほかにも、劇中歌の翻訳にも手こずりました。吹き替えでは歌唱部分だけ字幕で対応することが多いですが、字幕であってもリズム感は大切ですし、抽象的な歌詞だと意味をくみ取るのも大変です。ラップの場合は意味を保ちつつも日本語でも韻を踏むという作業に時間を使ってしまった記憶があります。

たったひと言のギャグも簡単には翻訳できず、いろいろと頭を使う仕事でしたが、やりがいがあり、本当に面白い世界だと思います。

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